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KLM

KLMは始まりのABC、終りのXYZの中間に位置する途中経過という意味です。 でも、理系の管理人なのでK殻L殻M殻という意味もあります。

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お子さま行進曲 子時代編その3

 


琴里が最初に行ったのは、あいさつ回りだった。
1000人を優に超える白ひげ海賊団船員全員に、琴里は挨拶をして回った。
琴里は一人ずつ、ちゃんと、きちんと、ずいぶん略式ではあるが、とりあえず名前と笑顔を振りまいてまわった。

 

「あにき、琴里です、よろしくおねがいします!」

 

 

 


2010/09/17

 

 

 

 


「おやじー」

「んだよ」

「えへへ、おやじー」

「甘ったれ」

 

琴里は暇なときは始終エドワードにくっついている。
元々孤児として忍の里で育っただけに、はじめて出来た家族が嬉しくて仕方ない。
特にエドワードは大きいし、船長だし、立派だし、尊敬できるし、短期間だがものすごく信頼できる。
琴里はラグに座っているエドワードの首に抱きついてみたり、膝によじ登ってみたりで忙しい。
エドワードも小さい息子が可愛いらしく、好き勝手させては時々可笑しそうに笑っている。

 

「琴里もおやじみたいに大きくなれる?」

「いっぱい飯食ったらな」

「琴里、おやじすきっ!」

「グララララ、俺もだぜ、息子よ」

 

 

 


2010/09/17

 

 

 

 


琴里は誰にでも人懐っこい。
ただ、数名を除いては。

 

「おいクソガキ」

「べーっ」

 

琴里はマルコが好きではない。
第一印象が悪すぎた。
マルコは琴里を不審者と決めつけ、押さえつけ、泣かせた。
自分をいじめたマルコを、琴里はもはや敵として認識している。

持ち前の俊足を武器に、琴里はマルコに会うと必ずあっかんべーをして逃げていた。
子供のやることにいちいち腹を立てていては大人げないと思っていたのだが、いい加減堪忍袋の緒が切れた。
マルコと琴里の鬼ごっこの始まりである。

 

「くぉら、待て、クソガキっ!!」

「ばーかばーか!!」

 

琴里はぐんとスピードをあげると、そのままマストに飛びついて器用に昇って行った。
呆気にとられたのは、二人の鬼ごっこを見ていた他の船員である。
つい先日白ひげ海賊団に入団したばかりとはいえ、所詮は子供。
雑用か見習いか、その程度のことしかできないと思っていたのに、曲芸か何かすいすいとマストをよじ登って…いや、駆け上がっている。
後ろを振り向いてみれば、追いかけているのは1番隊隊長のマルコであるし。
隊長を手玉に取るとは、末恐ろしい子供だというのがその場にいた船員の会見である。

 

「降りてこい、クソガキ!」

「いーよ」

 

のぼったと思えば、今度は勢いよく飛び降りた。
一瞬小さな悲鳴が起こったが、琴里は器用にくるくる回って、見事に着地した。
マルコの顔の上に。
もちろん琴里だって馬鹿ではないし、一応は前線で忍として活躍していた身である。
手心を加え、ちょっと鼻の骨が折れて鼻血が出る程度に勢いは弱めていた。
にっくきマルコを踏み台にして、また颯爽と逃げ出すつもりだった。

 

「よーやく、捕まえたよい」

「は、はなせっ!」

 

琴里は完全にマルコをなめきっていた。
彼は腐っても1番隊隊長なのだ。
数字がその強さを決めるわけではないけれど、隊長という肩書は伊達ではない。
真っ逆様に落ちてくる子供の攻撃を防ぐなど造作もないことだった。

 

「みっちり仕置きしてやるよい。ついでに、立場と目上に対する礼儀っつーもんを教えてやるよい」

「ぎにゃー!」

 

 

 

 

2010/09/17

 

 

 

琴里はなぜかサッチに懐いている。
いわく、似ているらしい。

 

「ねえサッチ、なんでみんなきものちゃんときないの?」

「着てたら邪魔だろーが」

「ふぅん?琴里じゃまじゃないよ」

「コトリはガキだからなぁ!」

「琴里はねぇ、大きくなって一人前の忍になっておやじの役にたつんだー」

「はっはっは、そりゃいい!」

「そいでね、おやじとけっこんするの!」

「…………いやいやいや、そりゃ無理だろ」

「なんでー?琴里、おやじすきだよ?」

「よし、俺が女の良さを教えてやる」

「ナースのおねーちゃんやさしーよ?」

「お前がいっちょまえに成長したら、俺が面倒みてやる!」

「わーい!」

 

 

 

 


似ているのは、リーゼントが伊達軍を彷彿させるとか。
2010/09/17

 

 

 

 

 

「おやじー!」

 

相変わらず元気よく駆けてくるのは、珍しく上半身裸の琴里だった。
普段は自分の服を着ているのだが、今日は特別暑かったらしくみなの真似をして脱いでみたのだという。
日に焼けていないなまっちろく、子供らしくなめらかな肌が惜しげもなくさらされていた。
問題ないと言えば問題ないだろうが、中には特異な趣味の奴もいるだろう。
これは教育せねばならないか、とエドワードは思った。

 

「あつい!」

「だが服は着とけ、服は」

「みんなぬいでる?」

「このやわらけぇ腹があいつらみてぇに割れたら脱いでもいいぜ」

 

琴里は自分の腹を触ってから、エドワードの腹を触ってみた。
かっちかちだった。

 

「おやじ、すごいっ!」

「男ならこれが普通だ」

「そっかぁ。琴里も、がんばればおやじみたくなれるかなぁ?」

 

少ししょんぼりしたかのように眉を下げた琴里は、どこか思案顔だ。
珍しいこともあるものだな、とエドワードはいつも空元気の琴里の頭をなでる。

 

「心配すんな、こんなの自然とついてくらぁ」

「そう?だったらいいなぁ…」

「なんだ、えらく弱気じゃねぇか」

 

「琴里おんなだけど、ちゃんときんにくつくかなぁ?」

 


エドワードが固まり、上半身素っ裸の琴里を改めてみる。
胸よりは腹が出ている。
これくらいの子供は男か女か身体つきでは判断できないと聞いていたが、 ま さ か !
認識してしまうと上半身裸の琴里を正視できなくなって、大急ぎで自分の上着を脱いで琴里をくるんだ。
エドワード・ニューゲート、数年ぶり、下手したら数十年ぶりに驚いた瞬間だった。

 

 

 

2010/09/17

 

 

 

 

 


「コトリー風呂入るぞー」

「あいっ!」

「うちの風呂はでっけぇから気持ちいいぞー」

 

モビー・ディック号には浴槽が備え付けられている。
しかし船員数がとても多いので、入浴は毎日というわけにもいかない。
もちろん新人である琴里にも当てはまるので、この日は琴里初めての入浴だった。

 

「クソガキ、あんましはしゃぐなよい」

「うーい」

 

先日のお説教騒動からすっかり琴里の世話役となってしまったマルコは、こちらの話半分に服を脱ぎ散らかしている琴里にため息をついた。
間をおかず、浴室からきゃーきゃーばしゃばしゃ騒ぐ声が聞こえる。

 

 

 

 

お風呂、前編。
2010/09/17

 

 

 

 

 


「おー!いーにおいする!ふわふわ!おいしい!?」

「食ってみるか?」

「…にがい」

 

「ぎにゃー!目に入った、いたいいたいいたい!!!!」

「こっち向け、水掛けてやる」

「ふはっ!」

 

「で、これなに?」

「泡だ、石鹸の」

「ふぅん?おもしろいね!」

 

「琴里、湯あみってはじめて!たのしいね!あったかいね!!!」

 

 

 

中編
2010/09/17

 

 

 

 


「おーいクソガキ、てめぇもちっとおとなしくしろい」

「マルコっ!おふろってすごいね!?すごいね!!!」

 

遅れて入ってきたマルコは興奮した様子で駆けてきた子供を小脇に抱え上げ、身体を洗ってやろうと風呂イスに座らせた。
石鹸を泡立てて頭を洗ってやる。
なんでこんなことしねぇといけねぇんだ、と思いながら何度目かのため息をついた。
妙に子守りが板についてきた自分にもため息だ。

 

「ふひっ、くすぐっちゃい」

「我慢しろい」

「あう、いたい」

「ほれ、身体は自分で洗え。要領はわかったな?」

「あい」

 

楽しそうに身体を洗う琴里の横でマルコも自分の体を洗い始める。

 

「マルコ、あらいおわった!」

「ん、流してやるから待っとけ」

「あい!」

 

 

 


2010/09/17

 

 

 

 

 


おったまげた。
ついてなかった!

 

「おいクソガキ」

「なに?」

「お前、女か?」

「琴里おんなだよ!」

 

身体を洗い終わったというのでその身体を流してやる。
泡が綺麗に落ちた身体を見て、違和感を感じた。
あるべきものが、ついてない!

 

「クソガキ」

「琴里!」

「コトリ…先あがってろい」

「えー、琴里まだ湯あみした…」

「いいから先あがってろ!」

「ふ、わ!ぁい…」

 

予想外に大きな声になったせいで琴里は半泣きになっていたが、今はそんなことにかまっている場合じゃない。
先に入っていた連中をじろりと睨みつければ、バツが悪そうに目線を背けるものばかり。
そういえば、途中から嫌に静かだったような気がする。

 

「テメェら、今見たことはすぐ忘れろよい」

 

 

 

 


保護者マルコ誕生。風呂編おわり。
2010/09/17

 

 

さて、好きキャラ贔屓がいかんなく発揮されてまいりました。
明日か明後日にはマルコルートかっこわらいかっことじるに入ります。
…エースに出番はあるのかな!

 

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お子さま行進曲 子時代編その2


 

 

 

「琴里、これからどうしよう…」

 

ぽつりと呟いた琴里の言葉に、エドワードは決めた。

 

「お前、コトリ」

「あい」

「覚悟はあるか」

「なんのかくご?」

 

海賊とは、賊だ。
人から忌嫌われ、常に戦いに身を窶す。
殺し殺され、命の奪い合いが日常となる。
宝の強奪、人の恨み。
海軍から追われ、捕まれば待っているのは処刑。
その先に待っているのは、仲間との航海、財宝。
失うものの方が圧倒的に多い。

 

「海賊になる覚悟だ」

「かいぞくって、なぁに?」

「人から嫌われ、殺し殺され、追われ、仲間の為に命を捨てる奴らのことだ」

「忍もね、きらわれてるよ。ころすよ、ころされるよ。かくれてるから追われないけど、みんなひっとーのために死んでくよ」

 

琴里は幼いころから忍の里で、城に来てからは長ずっと言い続けられてきたことを思い出す。
忍とは道具だ、使い捨てで、主の命令には絶対で、秘密を守るために自ら死ぬことを厭うてはならない。
感情など余計なものは捨ててしまえ、道具だ、道具なのだ。
ただひたすら、道具として忠実に仕えてればいい。
死ぬことを恐れるな、恐れなど必要ない。
ただ命尽きるその日まで、働いていればそれでいい。
その代わり、存在意義が与えられる。
なにもない琴里の証明になる。それを誇れ。
己は道具として、一級品なのだと。

 

「琴里はね、人じゃなくて忍だよ。忍はね、どうぐなの」

「まだまだ琴里ちっちゃいけど、長によくおこられるけど、半人前だけど、忍だけど」

「琴里も、かいぞくになれますか」

 

 

 


2010/09/17

 

 

 

 

 


エドワードは、琴里を認めた。
仕方がないからその道を選んだのではなく、自らしっかりとした意志を持って海賊になると決めた子供を。
自らの息子とするに値すると認めた。

 

「コトリ、今日からお前は俺の息子だ」

「にゅ?琴里、かいぞくじゃないの?」

「いいかよく聞け。この船はモビー・ディック号っつー名前だ。んで、この船の連中はな、白ひげ海賊団っつー海賊なんだ」

「あい」

「その頭がこの俺、白ひげことエドワード・ニューゲートだ。俺は部下はみんな自分の家族だと思ってる」

「かぞく…」

「コトリも白ひげ海賊団の一員になるっつーんなら、お前も今日から俺の家族、息子だ」

 

琴里はぱっと眼を輝かせた。

 

「みんなかぞく?」

「そうだ。兄貴が一度に沢山出来たな」

「あの人も、あの人もみんなあにき?」

「そうだ。俺は親父だ」

「琴里のあにきとおやじ…琴里のかぞく…」

 

 

 

短いけど第二話終了。
2010/09/17

 

 

 

 


琴里はその日から白ひげ海賊団の一員となった。
一部隊長や船員の中には琴里という存在をいぶかしがる者もいたが、ほとんどの船員は敬愛する親父が認めたことにより琴里を仲間と認めていた。

 

「琴里です、よろしくおおねがいします!」

 

 

2010/09/17

 

 

煮詰めた結果、エース入団前っつーことになりました。
エース主人公両方の子時代書きます。
最終的にエース19歳、主人公15歳くらいに落ち着く予定。
しかしメインはマルコと親父殿。
エースは噛ませ犬!

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お子さま行進曲 BASARA編と 子時代編その1




BASARA編。
強いて言うなら導入編。




 

「琴里」

「あい、上司」

「上司っつーのはヤメロ」

「あい、上司」

 

ごちん

 

「おぁー!? じょーしをじょーしって呼んでなにがわるい!」

「俺の命令に従わんお前が悪い!!」

「おーぼーだ、おーぼー!」

「もう一回くらいたいか?」

 

琴里は舌をべーっと出して、一目散に逃げ出した。
足だけは、黒脛巾の中でも追随を許さない早さだ。
城勤めだというのに、未だ頭の中が子供な琴里に黒脛巾の長はため息をつき、子供の後ろ姿を見送った。

琴里は黒脛巾の一人である。
数えで十という幼さながらも、黒脛巾のお眼鏡にかない城勤に召し上げられた経歴を持つ。
腕というか、足は確かなのだがいかんせんガキだ。餓鬼。
おつむの方が仕事についてきていない。
忍務の時はしっかりと役割をこなす。大人と肩を並べても遜色がないほどに。
それが、日常ではこれだ。
子供らしさを如何なく発揮し、我儘を言いたい放題、好き勝手し放題。
それでも大人から好かれる天真爛漫さを振り回している。
気づけば厨房からお八つを貰っていたり、馬番と一緒に馬と戯れていたりする。
流石に城主や兵たちとは交わっていないだろうが、不安がぬぐえない。
子供だからといって、許されないこともあるのだ。
なんだかんだ言っても、黒脛巾の誰もが琴里を可愛がっている。
あれはあれで聡い子だからそう滅多な事をしないとはわかっているが、それでも心配だ。

 

「親の心子知らず、ったく、忍になって親の心を知るたぁな」

 

 

 


2010/09/15

 

 

 

 

 

 


「おにーさん敵だよね?」

 

言うが先か、琴里がクナイを真横に滑らしたのが先か。
あるいは、猿飛佐助が小刀を投げつけたのが先か。

 

「っぶね」

 

行きつく島もなく、二撃三撃が襲ってきた。
声の高さと背に感じた重さからいって、相手は女か子供だ。
不覚としか言いようがない。
偵察中に後ろをとられ、首を刎ねられかけるだなんて。
クナイを出して応戦するが、反撃の隙が、ない。
ち、と舌打ちをした瞬間だった。
身体に大きなものがぶつかって、腹部からぶつんと何かが刺さる衝撃があった。
一瞬のち、ぴいい、と大きな音がした。
すぐに応援を呼んだのだと気付いた。

 

 

 


2010/09/15

 

 

 


「いひゃい」

「我慢しろ、馬鹿」

 

琴里は自室の布団の上で、珍しくおとなしくしていた。
先の密偵事件で、一番に相手と対峙したのが琴里だった。
応戦し、善戦したものの、刺し傷多数の怪我を負った。
鎖帷子を着ていたから致命傷といえるものはないが、大怪我と呼べるものだった。
黒脛巾の長はため息をつきながら、琴里の看病に当たる。

 

「くそー、あとちょっとで勝てた!もうちょっとで獲れたのに!」

「あの猿飛佐助相手によくやったが、お前もうちっと後先考えろ」

「こんどきたら、琴里が頸獲る!長にはゆずらないかんねっ!!」

「お前…今度があったらお前のが殺されるっつーの」

「長はあんなちんちくりんより琴里のがよわいって!? 琴里より足おそいくせに!きづかなかったくせに!!」

 

かちんときたので、傷口を乱暴に縫う。
ぎにゃー、と泣き声がしたが、知らんぷりだ。

 

「さいしょだって、もうちょっとで頸刎ねれたのに!腹だって刺してやった!鎖帷子着てなかったよ!」

「しっかし、何も俺らが行くまで猿飛佐助にくっついて動きを封じるこたぁねぇだろ」

「だって、そうしないとあいつ逃げるよ!長たちおそいしー、みぎゃー!!!イタイイタイ痛い!!」

 

確かに、今回は琴里の功績が大きい。
最初に不法侵入者に気付いたのは琴里だし、相手に傷を負わせ他のものに知らせたのも琴里だ。
よくやった、と褒めるべきところなのだろうが、褒めたら褒めたで調子に乗るのは目に見えている。

 

「まぁ、お前にしてはよくやった方じゃねぇの?」

「琴里、がんばった!えらい?えらい!?」

「これでも食って、さっさと養生しろ。またこき使ってやる」

「ずんだ餅だぁー!!わーい、長ふとっぱら!すきっ!」

 

でも結局、甘やかしてしまう。

 

 

 

2010/09/15

 








ワンピース編
強いて言うなら、たぶん、本編。
の、第一話。


その日は快晴だった。
雲ひとつなく、雨粒のかけらもなく。
ただ、落下する者があっただけで。

 

 

 

 

 

 

モビー・ディック号は緩やかな風が吹く快晴の中、のんびりと航海を楽しんでいた。
全世界最強の海賊団を束ねる最強の男も、甲板で日光浴をしてしまうくらい、長閑な日だった。
雲ひとつない空から、雨でも雷でも雹でも、ましてや魚でもない者が落ちてくるまでは。

 

「おろぉぉぉぉ!?」

 

最初に気付いたのは誰だったか。
微かに聞こえた波音以外の音。
それが船内からではなく空から聞こえたことにより、空を見上げた物が幾人。
つられるように空を見上げる者がいて、騒ぎに反応した船内の者も出てきて今では甲板に出ていたほぼ全ての船員が空を見上げていた。

 

「なんだ、ありゃ」

「人か?」

「ガキだ」

 

ざわざわと騒ぎだす船員---息子たちはさておき、エドワードは空を見た。
老いた目で確認できたのは、大きな塊が落ちてきていることだけ。
息子たちのざわめきに耳を傾ければ、どうやらそれは子供であるらしかった。
非情であるのが海賊だが、時に常人以上に情け深いのも海賊だ。
みすみす自分の目の前で命が失われるのはなかなかどうして悲しい話じゃないか。
助けられるのなら、それに越したことはない。
座っていたラグから身を起こし、歩みを進めた。
エドワードは落下地点を予測し、大きな身体をめいっぱい広げ落下者を受け止めた。

 

「ふぎゃん!」

 

受け止めた者は、人の子のように見えた。

 

 

 

2010/09/16

 

 

 

 

 

「あのねぇ、琴里は琴里。おーしゅーのよねざわ城でねぇ、忍としてはたらいてたの」

「そうか。しのびってなんだ?」

「忍は忍!お城のけいびしたり?琴里はまだやらせてもらえないけど、長はていさつやあん殺もやるの!」

「ガキのくせに物騒な事してるじゃねぇか」

 

子供は船長室で、3人の隊長に囲まれながら坦々と話していた。
空から落ちてきた子供は子供だったけれど、現れ方が特殊だったうえ狙われることが多い白ひげ海賊団としては子供だからといって見過ごせるものではない。
こうして隊長3人と船長である白ひげことエドワード自ら子供の取り調べを行っている次第だ。
しかしながら当の子供はそんなシリアスな空気を微塵も感じる様子もなく、どうやらエドワードの髭に興味深々のようでエドワードよりも髭を見ながら話している。
エドワードの覇気にも3人の隊長の威圧にも当てられず呑気にしているのは、豪胆なのかただ抜けているのかよくわからない。

 

「おいガキ、どうして空から落ちてきた」

「琴里は琴里だよ!えとねぇ、おひるねしてたらねぇ、長にバレてねぇ、あ、琴里ちゃんとやることはやったんだよ!?長がおこりっぽくてねぇ!!」

「わかったわかった、んで?」

「屋根の上で追っかけられてねぇ、かわら投げられてねぇ、琴里のあたまに当たったの。長ひどいよねぇ!!!けがするよ!!」

「そうだな。続きは?」

 

幾度も子供の話が逸れていくのを根気強く聞くエドワードは流石1600人もの息子を束ねる親父だなとその場にいた隊長3人は感心していた。
自分たちはもう子供の長話に辟易し、苛立ちさえ感じているのに。

 

「池にねぇ、おちたの!そしたらね、水の中じゃなくてね、空だった!おちてたの!!」

「池に落ちたら空だったのか?」

「そうそう!お城のお池がね、空につながってたの!琴里びっくりした!」

 

ため息は、誰の口から出たのか。

 

 


2010/09/16

 

 

 

 

「琴里、お城にもどらなきゃ」

 

ふと顔をあげた子供は、突然扉の方へ歩き出した。
隊長の一人、マルコがそれを阻む。

 

「どこへ行くんだよい」

「お城へ帰るの。あんまりおそくなると、また長におこられるから」

 

さも当然と言わんばかりに、子供は進もうとする。
それを許すマルコではない。
現在このモビー・ディック号には多くの船員がいて、自分はそれの一部を預かる役を担っているのだ。
子供といえど、得体のしれない不審者を好き勝手させるわけには、部下を危険にさらすわけにはいかない。
確かに外見上は普通の子供でも、空から落ちてくるという怪しい登場をしたのだ。
人畜無害そうな顔をして、親父の命を狙ってきた刺客かもしれない。
そんな危険な輩を自由に船内を歩かせてたまるものか。
他の2人の隊長も同じ考えのようで、厳しい視線を子供に送っている。


「えっと、通れないよ?どいて?」

「ダメだよい。お前、ホントのことを言えよい」

「どいて。琴里、お城に帰るの」

「どこにある城に、何を持って帰るんだよい」

「おーしゅーのよねざわ城に、琴里は帰るの」

 

じわじわと、冷たい空気がマルコから染み出す。
先ほどから腹の中で溜まっていた子供への苛立ちがあふれ出している。
子供は意味のわからないことばかり言う。
要領を得ず、自分の言いたいことばかり言う。
もどかしさと、ジレンマ、意思疎通が不可能なのではないかと思った。

 

「どいて」

「どくかよい」

 

親父は止めない。
ならば、したいようにしていいのだろう。

 

「どいてっ!琴里、お城に帰るのっ!!」

 

 

 

2010/09/16

 

 

 

 


子供が泣いているからといって、心動かされる大人はこの部屋にいなかった。
子供は大声でわんわんと泣き喚いているが、慰めの言葉をかけようとする者は誰もいない。
涙で動揺するには、多くの涙を見過ぎていた。

 

「ど、どうして琴里のじゃまするの?ひっひっ、こ、琴里は、お城に、かえ、るの!」

「かえしてよぉ、琴里の、お城に、おうちに!ふぐっ、うぅぅぅ!!」

 

動いたのは、エドワードだった。

 

「おい、ガキ」

「ことっ、琴里だも、んっ!」

「そうかい、琴里よ。お前さん、どこへ帰る」

「おーしゅーのっ、よねっ、よねざわ、城」

 

エドワードはマルコに押さえつけられて泣いている琴里の首根っこをつかみ上げ、外へ出た。
扉の外は、外だった。
潮風が吹く。
眩しいほどの快晴で、大海原がきらめく。
どこまでも続く海と、空。

 

「琴里、答えろ。どっちに行って、どうやって帰る」

「……ここ、どこ?」

「海だ」

「うみ?うみってなぁに?」

「目の前に広がってる、水のことだ」

 

子供はぱちぱちと瞬いた。
瞬く度瞳に溜まっていた涙が零れおちたが、新しい粒は溢れていなかった。

 

「うみは、どこまでうみ?琴里、およげるよ。どっちへ行けばおーしゅー?」

「海はな、ずっと海だ。今は島に向けて航路をとっちゃあいるが、島へはあと三カ月はかかる」

「どうやったらおーしゅーに行ける?琴里、帰れる?」

 

 

「帰れねぇよ」

 

 

 


2010/09/16

 

 

 

 

「帰れねぇよ」

「琴里、お前は帰れねぇ」

「海は泳ぎ切れる広さじゃねぇ」

 

白ひげが言うと、琴里は再び泣きだした。
先ほどの男に取り押さえられた時の怒りとは違い、突然の宣告への戸惑いの涙だった。

 

「こ、琴里は、かえる、よ?」

「どうやって?」

「およい、で」

「いつまで泳ぎ続けられる。溺れ死ぬのがうちだ」

「お、およげるもん!琴里、がんばるもん!!」

 

本当は泳ぎきれないことが琴里にもわかっていた。
どこまで見ても、何の影も見えないほどに広がる水たまり。
果てがあるのかすら疑いたくなる。もしかしたら、この先陸地なんてないかのように錯覚してしまうほど広い、うみ。
ただ、現実を受け入れたくなかった。
気づけば知らない場所にいて、自分の仕事場であり家である米沢城に帰れない。
全てが突然すぎた。
琴里の幼い頭では、理解も納得も出来なかった、受け入れられなかった。

 

「ことっ、ことり、はっ!」

「おう」

「かえれ、ないの?」

 

「そうだ」

 

でも、琴里は白ひげの目を見ると、それが本当のことだと悟った。
悟ってしまった。

 

「ことり、おしろに、かえれないっ!!!」

 

 


2010/09/16

 


 


性別は第二話で判明?
琴里→ことりです。
雛ではないにしろ、まだまだ幼いので小鳥ちゃんです。
いつかタカになる日はくるのかしらん。

白ひげ海賊団で、おさなっ子で、忍者で、って考えた結果の今回のお話。
趣味の世界っていーよね!!

新人エースと古参チビッ子の意地の張り合いを書くか
ちびっことその面倒をみる羽目になったエースを書くかでものすごく迷い中。




マルコ 「コトリ、新人だ、面倒見てやれ」

主人公 「あいっ!琴里だよっ!」

エース 「なんでガキが…」

主人公がエースの頭ぽかんっ。

主人公 「琴里は琴里っ!おまえのが琴里より下なのっ!!」

エース 「はぁ!?ふざけんなよ、このクソガキっ!!」

やいのやいの、ぎゃーぎゃー

マルコ 「ガキが増えた…(げっそり)」



ちなみに主人公10歳程度、エース13くらい。原作がどうなのかは知らない。






マルコ 「エースだろ」

サッチ 「エースだな」

白ひげ 「エースか」

エース 「はぁ!?」

白ひげ 「よしコトリ、今日から俺が親父で他は全部兄貴だが、特別にお前の面倒見てくれる兄貴はあれだ。覚えたか」

主人公 「あい」

エース 「ちょ、親父!俺はまだ…!!」

マルコ&サッチ 「「 諦めろ 」」





…前半のがよさそうかな。

拍手

無題


「よぉ」



昼だというのに酒と煙草と男たちの笑いが響くいつのも酒場、7席しかないカウンターの一番左端のいつもの席。 一人でパッセンジャー・リストを舐めながら、つまみであるゴルゴンゾーラとクラッカーを貪るといういつものスタイル。 うるさい中で一人静かに酒を煽るという行為が少しカッコ良くて気に入っている。 でも、この掛け声は嫌い。



「まぁた一人かよ」

「そうよ、高根の花って雰囲気で素敵でしょ」



一度だけ目を見て、それから目線をカウンター奥の棚に移す。 色取り取りの酒瓶を見るのは楽しいけれど、それ以外見るものがなくてひたすらそれだけを見ていて見飽きている。 でも、あいつの相手をするよりはうんとマシだ。 こうやって声をかけられることは時々ある、いや、あった。 過去系だ。
昔も変わらず一人でやっていたら、酒に酔った阿呆な男に声をかけられた。 髯面で、肉の塊で、下卑た笑いを浮かべていて、非常に不愉快だった。 拒否の声を発したにもかかわらず、引き下がらない。 周りは、男の仲間はそれを煽る。 挙句の果てには卑猥な行為を求められ、腕を掴まれたので腹が立った。 男は嫌いだ、いつでも女を下に見る。 酒に酔った男は一番嫌いだ、自分が世界で一番だと思う愚か者だから。 ちゃんと拒否はした、それでもやめなかったのは男の方。 見縊るな、女だからといって男に劣る理由はない。 男の首に手を回し、そっと顔を近づけ妖艶に笑う。 男がにやりと笑うと同時に、膝で勢いよく股間を潰した。 次いで回した腕をそのままに頭突き。 男が呻いてつかんでいた腕が離れた瞬間に、掌を握り込んで右ストレート。 右だけじゃ左が可哀想だから、左の頬にハイキック。 倒れ込んでもダメ、暴飲暴食を繰り返した柔らかい腹を蹴り、少しでも楽になるように吐かせる。 これは思いやり、お腹いっぱいで苦しいままだったら可哀想かと思って。 ごほごほと咳込み吐瀉物で汚れ、鼻血で真っ赤になった顔が面白いから、男の仲間にも見せてやろうとまた腹を蹴って仰向けにさせる。 曝された喉元に足をそっと乗せる。



「這いずりなさい、お前にはそれがお似合いだわ」



それからいつの間にか静かになった周囲を見回して、また席に戻る。 呑む気分じゃなかったから、残っていた酒を一気に飲んで数枚残っていたクラッカーを急いで食べて、マスターに一言謝って支払いを済ませて店を出た。 とたんに気分が悪くなった。 もともと酒には強い方ではないので、酒を一気したのが効いたのだろう。 その後のことは語るに値しない。
そんな一件があったので、男に声はかけられなくなった。 どうやら先の男どもがご丁寧な事に噂を広げてくれたようだ、酒場の可憐な美女には手を出すな、と。(噂は若干こうだったらいいなと希望と憶測が混じってるけど、たぶんあってる、はず) だから、声をかけてくる男は少ない。 少ないだけで、皆無ではない。 興味本位で声をかけてくる男がいる。 死ねって思う。 そんな奴らは適当にあしらうか、しつこい様だったら睨む。 睨むと大抵逃げていく。 逃げない奴は潰す。 何を? もちろん、大切なトコ。 …顔が良かったら、ちょっと話す。 でも、ナンパ男が大方だから今まで特に収穫はなし。 カレシボシュウチュウ。 タダシイケメンセイカクヨシニカギル。

なのにこの男ときたら。



「なんで一人なんだよ。友達いねぇワケ?」

「そうよ」 (いや、普通に居るけど。お昼は一人派なだけで)

「へぇ、カワイソーなヤツ。んじゃさ、彼氏とかは?」

「そうね」 (絶賛募集中ですが)

「いや、ソウネじゃなくて。いんの?いねェの?」



ほっとけ! 








続きは…書きに来る…かも?
ちなみに、鬱陶しいのはAのおにーちゃんです。
おにーちゃんは過去酔い潰れてへろへろになってるヒロインを見て、でも気丈に振舞っているのを見てギャップに萌えたそうです。ちなみに、ヒロインから返事が返ってくるようになるまで3カ月。最初の1週間は無視&睨まれ、2週間目に殴られ、1カ月で諦めたヒロインが無視を決め込みます、それでもあきらめないAに根負けしたヒロインはぼちぼちにあしらうようになった今です。




「あんたは嫌いよ」

「でも」



「嫌よ嫌よも好きのうち、ってね」




こんなend

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無題


あれ、前これ更新したつもりだったけど、してなかった?
BASARAの伊達っつか、梵の夢。逆トリ。もはやオリジナル。

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〔つづきはこちら〕

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