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KLM

KLMは始まりのABC、終りのXYZの中間に位置する途中経過という意味です。 でも、理系の管理人なのでK殻L殻M殻という意味もあります。

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現実が現実でしかない

なんとか形になったので、文字だけ置きに来ました。
木兎くんと一線を越えるお話。
シリアスで恋愛要素はない。
R18というほどでもないけど、二人ともめっちゃセックスセックス言う。


デフォルト:桐崎啓(きりさきあきら)






その日は悪いことが重なった。制服のブラウスにお味噌汁をこぼして、新しいブラウスに着替えた。そうしていたらバスの時間ぎりぎりになってしまって、ちゃんと天気予報を見ていたのに、慌てて家から出たせいで傘を忘れて。しかも、頑張って走ったのに目の前でバスが行った。嘘でしょ、というつぶやきは激しさを増す雨音にかき消された。
その後も悪い事は続いて、次のバスを待ってる間にずぶ濡れ、おろしたてのブラウスは見るも無残。ローファーはぐしょぐしょ。体操服に着替えようとロッカーを開ければ、洗濯しようと昨日持ち帰ったところ。少しでも乾かそうとセーターを脱いで、手洗いで絞ろうとしたら男子に透けブラと指差されて笑われた。
なんでこんなことに、って生理前の情緒不安定も影響してか、制服を絞りながら涙がこぼれる。

「桐崎泣いてんのか?」
「濡れてるからそう見えるだけでしょ」
「いや、泣いてんだろ」
「泣いてない」

とどめと言わんばかりに、泣いている姿を木兎くんに見られた。最悪だ。最悪最悪最悪、サイテーな気分。
空気を読むということが出来ない木兎くんは、じろじろとわたしを見てはわかりきったことを質問してくる。

「着替えねーの」
「うるさい」
「風邪引くぞ」
「うるさい」
「心配してやってんのに」
「うるさい!ほっといて!!」

八つ当たりなのはわかってる。でも、止められない。桐崎コエー、と教室とは反対方向に歩き出す木兎くんに悪いと思いつつも、今は一人でいたかった。これ以上話していたら、きっともっとひどい事も言ってしまう。
落ちている気分に自己嫌悪も加わって、いっそ吐き気がする。焼けそうなほど心が熱い。けれど、雨にうたれた体はどんどん冷えていく。このまま風邪をひいたことにして、帰ってしまおうか。それとも、帰るふりをしてどこか遠くに行ってしまおうか。
絞ったところで全然乾かないセーターを着るしかない現実に、今度は悲しくなってきた。もうヤダ、って小さき声に出したところで、目の前が暗くなった。

「ほら、俺の貸してやるよ」

頭からばさりと何かをかぶせられた。視界をふさぐそれをどけて手に持つと、目の前には木兎くん。先程まで頭にあったものはスポーツタオルとジャージ。状況をうまく呑み込めず、木兎くんを見ていると、わざわざ部室まで戻ってジャージとタオルを取ってきてくれたらしい。あんなにひどい事を言ったのに。

「バカは風邪引かねーって言うけど、桐崎カシコいじゃん?俺はどうせジャージ着ねーし」

じわじわとジャージが体を温めて、荒ぶっていた心を静めていく。でも、まだささくれ立った心では素直になれず、小さくありがとうと言うだけで終わった。
トイレで木兎くんのジャージに着替えて、びしょびしょの制服を手に持って教室へ戻る。木兎くんのジャージはとても大きくて、上はまだしも下は何回折っても裾を引きずるので大変だった。しかも、木兎くんの名前入りバレー部ジャージを着ているものだから、周囲の視線が痛い。きゃあきゃあ色めき立つ周囲が鬱陶しい。今日に限っては、遠巻きに様子を窺う友達にさえも苛立ってしまう。ふん、と無視して机に伏せれば、机の冷たさが気持ちよかった。

「桐崎ダイジョーブか?」

揺り起こされて、目が覚める。顔を上げるともう先生はいなくて、かわりに周囲の雑音と木兎くんの声が聞こえる。

「いま、なに…」
「昼休み。桐崎ずっと寝っぱなし」
「せんせ、なんか言ってた?」
「桐崎具合わりぃけど、授業受けたいらしいからこのままで、つっといた」
「ありがと」

風邪を引いたことにしてサボりたいとは思ったけど、まさか本当にこの短時間で熱を出すとは思わなかった。一限目から四限目まで丸っと眠っていたなんて。病は気から。とことん気が滅入ってる今なら、病魔も喜んで寄ってくるのだろうか。ぐらぐらする頭を押さえても、揺れる視界は変わらない。
きっともうすぐ頭痛がしてくるんだろうな、熱はそこまで高くはならないな、とあたりをつけていると、ぐいっと手を引かれた。

「保健室行くぞ」
「やだ。歩きたくない」
「しゃーねーなー。ほれ、背中乗れ!」

ん!としゃがんだ木兎くんを、椅子の上から見る。しゃがんでもデカいな、この男は。なんて考える余裕が生まれているのは、たっぷり寝たからだろうか。
体はしんどいし頭も重いし、寝起きでなにも考えたくなかったけど、流石に男子におんぶされて保健室に行くのは目立つし恥ずかしいし今後何を噂されるかわかったもんじゃない。だいじょうぶ、あるく、と立ち上がって、のそのそと歩き始める。心配だから送る、とすぐさま追ってきた木兎くんに手を引かれながら、手を繋いでいるという事実に気づかないまま保健室へ向かった。



急病人が出たとかで、先生が不在の保健室。
教室から保健室までのちょっとの距離で歩き疲れてしまったので、先客がいないか確認したその足でベットに倒れ込んだ。

「しんどい、さむい、ヤダヤダ」

周囲に木兎くん以外誰もいなくなったことで、鳴りを潜めていた感情が爆発した。保健室の硬くて冷たくて重たい布団では、何もよくなる気がしない。

「もうヤダ」

何がイヤなのか、自分でもわからない。でもイヤなんだ。そうでも言ってないと、なんだかつぶれそうになる。ヤダヤダと言っているうちに、ぽろりと涙もこぼれてきた。

「桐崎はさー、何がそんなに嫌なん?」
「わかんない。わかんないけど、全部がイヤ」
「んー、ヨシヨシ?」

ぐすぐすと泣きながら支離滅裂な事を言うめんどくさい女に成り果てているのに、木兎くんはよくわかっていないながらも歩み寄ってくれた。それに気を良くしてしまったわたしは、布団に押し付けて隠していた顔を上げて、ベッド脇にしゃがみこんでいた木兎くんを睨む。情緒も、体調も、顔も、髪も、全部がぐちゃぐちゃなわたしの顔を見ても、木兎くんは怯まない。

「木兎くん、なんとかして」

泣きながら、甘える。
我ながら最低だな思う。朝から木兎くんにした仕打ちを考えると、もう本当にどうしようもない。心配してくれたのを邪険にして、怒鳴って、八つ当たりして。今だってずっと優しくしてくれてるのをいいことに、わたしは言いたい放題で。それでも、木兎くんならなんとかしてくれるんじゃないかって妙な期待もあって。
じっと目を逸らさずにいた木兎くんは、少し考えるそぶりをしてから、じゃあ…ととんでもないことを笑顔で口にした。

「セックスしてみる?」

その言葉がわたしの耳から脳へと到達した瞬間、は?と声が出た。
セックス、セックスって、セックスの事?木兎くんにもそういう知識あったんだ?てゆーか、誰と誰がセックスするの?木兎くんとわたしが?は?
あまりの衝撃的発言にフリーズしていると、まるで何でもないことのように木兎くんは続ける。

「桐崎が具合悪いってんなら、別にしなくてもいーし」
「あ、てか風邪引いてんなら止めといた方がいいのか?」
「つーか、ゴムもねーし」

何を、何を言ってるの、本当に。
混乱する。普段の木兎くんとかけ離れすぎていて、なにがなんだかわからなくなる。
具合が悪いなら、セックスせず寝ているべきだし。
風邪引いてるならうつしてしまうかもだから、なおさらセックスすべきではないし。
ゴムがないとか言語道断すぎる。特に今は生理前だからやばい。
冷静になればなるほど、木兎くんの提案はヤバすぎた。木兎くんのとんでも発言のいつの間にか涙は止まったし、ぐらぐら揺れていた頭も少しだけもとに戻った気がする。

でも、おかしくなってしまったわたしの心が正気に戻るのを許さない。

「する」

わたしは処女だ。
セックスへ興味がないわけではないけど、機会がなかったからまだ処女だ。友達には処女を喪失した子もいて、なんだか幸せそうにしていたし、輝いて見えた。その時は話半分に聞いていたけど、セックスをしたら変われるのかもしれない。何に変われるかなんてわかんないけど、今のこの最低な自分をなんとかしたい。

「え、セックスすんの?」
「木兎くんが言い出したんじゃん、しないの?」
「いやするけど、俺風邪引かねぇ?」
「たぶん風邪じゃないから大丈夫なんじゃない?」

処女と一緒に最低な自分も捨てれる気がする。
せめて身綺麗にしようと髪を整えていると、どすん、とベットが揺れた。目を向けると、眼前に木兎くんが迫ってきていて、ちょっと待って、と止める間もなくキスされた。

「急すぎ」
「そぉ?」

うん、と頷くと、木兎くんはわたしの首筋に噛みついて行為を始める。性急すぎることに驚きながらも、こうして多少強引にでも始めてもらえるのは、ごちゃごちゃ考える暇がなくて助かった。
色々な所を触られて、気持ちいい所もあったし、何も感じないところもあった。破瓜の瞬間はめちゃくちゃ痛くて、セックスって気持ちいいものじゃなかったのかとひどく落胆した。



「セックスしたらさ、もっと木兎くんの事好きになるかと思った」
「どーだったん?」
「何も変わらなかったよ」

時間にして、わずか15分ほど。たった15分で、初セックスは終わってしまった。漫画とかドラマで愛し合う二人が幸せそうに行う行為は、所詮夢物語でしかないのだと現実を突き付けられた気分だ。
自分を見失うくらいの快感や、感じたことのない快楽、どうしようもない性への興奮なんて、そんなものはなかった。

「がっかりだよね」

どうするんだと思っていたゴム問題は、わたしのお腹の上にぶちまけられて処理されていた。それを備品のティッシュで拭きながら、ベッドに腰かけている木兎くんを見る。たぶん、木兎くんはいつも通りだ。何も変わっていない気がする。そこまで木兎くんに詳しいわけじゃないからわからないけど。
嫌なことがあって、自暴自棄になって、今迄の自分に別れを告げたくてセックスしてみたはずなのに、わたしは何も変わっていない。

「えー、ソレ俺がヘタって言ってんの?もっとすごいとこ見せてやろーか?」
「やだ。めちゃくちゃ痛かったし」
「桐崎のナカ狭すぎて、俺もちんこ痛かったからお互い様だろ」
「なんてゆーの、セックスしたらもっと違う世界が見えるかと思ってたけど、全然、普通。いつも通り」
「そりゃ、俺らがヤったくれーで世界は変わんねーよ」

まさか木兎くんに諭される日がこようとは、夢にも思わなかった。確かに高校生二人がセックスをして世界が変わるなら、世界は秒単位で変わっている。いや、本当に世界は秒単位で変わっているのかもしれない。わたしはわたしが世界を見る目が変わると、そう期待していたんだ。
現実は残酷で、15分時間が経った以外何も変わっていない。もしかしたら木兎くんのことを好きになるのかも、なんて考えていたけれど、そんなこともない。もっとぎくしゃくしたりするのかとも思ったけれど、いつも通りで拍子抜けしたくらいだ。セックスって、その程度の物だったのか。

「処女を無駄にした」
「無駄ってなんだよ、無駄って」
「でも、セックスを知れたから無駄でもないのか」

中途半端に脱がされたジャージを整えて、少し湿ったショーツに足を通す。自分の体液がしみこんで冷たいショーツは、お前はもう処女じゃないんだぞと現実を突きつけてくるようで鬱陶しい。

「うわ、シーツに血ぃついてる。どーすんだよコレ」
「生理ってことにする」

ケタケタと木兎くんが笑うので、わたしも笑った。
うん、サイテーだ。色々うまくいかずに木兎くんに八つ当たりして、少し優しくされたからって好きでもない人に体を許して、処女を散らして。どうしようもないくらい最低だ。

その日以来、わたしはわたしが嫌いになった。


2024/4/23
本当は赤葦くん夢としてつなげるべく、赤葦くんが登場したりもうちょっと色々あったんだけど、なんかもう面倒くさくなって消えた赤葦くん要素。ごめんね。
じゃあこれは木兎くん夢かと聞かれれば微妙だし…なんなんだろう。おそらくこの木兎光太郎は非童貞ってことしかわからない。主人公のことを大事な友人とは思ってるけど、それ以上ではない。主人公も同じく。やまなしおちなしいみなしじゃん…。

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