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KLM

KLMは始まりのABC、終りのXYZの中間に位置する途中経過という意味です。 でも、理系の管理人なのでK殻L殻M殻という意味もあります。

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別ルート

以下、当初100年の魔女を連載する予定がなかったころの魔女話。
最終話ではないですが、ある種の終わりです。





「わたくしの、尊敬する人ですか?」

 

ラグに横になって、手元の小説から目をあげる。
尊敬、という言葉だけでは到底足りないが、自分の中の貧しい語彙の中その言葉に当てはまるのは一人しかいない。
名前を口に出すのさえ憚られる貴い存在、というのは建前で、その名を他人に教えるのが勿体無いという単なる独占欲なのかもしれない。
くすりと自分の中の矮小な思いを笑って、口を開いた。

 

「わたくしが尊敬するのはたった一人の御方です。わたくしは生涯あの方と在ると心に決めました」

 

今現在は深い森の泉の淵に建てられた小さなログハウスに一人で暮らしている。
共に、と心に決めたが、その願いは叶わなかった。
彼は世界にその身を捧げ、皆の幸せのため散ってしまった。
もちろんその皆の中に自分も含まれている。
けれども自分の幸福は彼とともに在ることであり、他にも彼を思う人々は一様に涙した。
そして遺された人は己の立場をわきまえ、彼の残した世界を守ろうと必死になって生きている。
そうすることで彼の望んだ世界を作り、彼への手向けと追憶と申し開きとしている。

自らを責めることを彼は望んでいない。
明日を生きてほしい、というのが彼の願いだから。
それでも彼の作った世界を守ることは、遺された者にとって当然の流れだった。

各言う自分は世界の爪弾き者。
彼のために学と才を奮ったが、平和となった世界では無用の力。
そうして自分は引退を決意した。
体はともに在ることは叶わぬが、心だけはいつも、と心に誓って。

 

「そうですね、わたくしはあの御方を尊敬すると同時に、愛していました」

 

愛には様々な形があると思う。
親愛、友愛、恋愛、他にも、沢山な愛の形がある。
彼に対する愛は、その中のどれに当てはまるか。
きっとそれは、全ての愛がちょっとずつ混じっているのだと思う。
形の違うものが同時に存在することは難しいけれど、それだけ、彼を愛していた。
家族のように無条件の愛を、友達のように自然な愛を、恋人のように美しい愛を。
全てを、彼に捧げた。ささげたつもりでいる。

 

「魔女だったわたくしは、あの方の遺してくださった世界には無用の存在です。今はただの、一般人です」

 

だからこうして一人閑静な森の中、暮すだけなら苦労しない場所に住んでいる。
街まで出るのに歩いて小一時間、週に二度ほど買い物に行く。
それ以外は大抵家で小説や漫画、伝記や古書、とにかく何かを読んでいる。
偶に彼のいた世界に顔を出すが、あくまで一般人として世界が平和であることを確認するだけだ。
彼の世界で一日ショッピングやら何やらを楽しめば、家に戻ってきていつもの暮しに戻る。

何事もない日常。
あの頃と比べて、彼がいない分不幸かもしれない。
あの頃と比べて、争いがないだけ幸せかもしれない。

 

「それでもわたくしは、あの御方に感謝し、日々を幸せに生きています」

「こうして色々な事を教えてくれた、彼がわたくしの尊敬する人です」

「心から」






魔女から一般人戻りました。
マギという存在がなければこうなってた未来。

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